みらい

安曇野市穂高交流学習センター

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Vol.4

<第10回 長野県建築文化賞>

最優秀賞 長野県知事賞(一般部門) 受賞

<第6回 武蔵野美術大学建築学科芦原義信賞・竹山実賞>

竹山実賞 受賞
長野県建築文化賞の目的

□長野県の建築文化の発展に寄与する優れた建築作品を広く会員より募集し、意匠・技術面から総合的に審査し、その設計者である建築士の功績をたたえ表彰することによって、会員の創作意欲や設計活動の向上に資する。
□表彰作品及び設計者を公表し、社会に建築士の活動や建築士会の存在の理解をはかる。

第6回竹山実建築賞を選び終えて

          竹山 実

今回の応募作は合計8点で、卒業年度1983年から2003年に及ぶ9名の卒業生の力作が寄せられました。いろいろ検討させてもらった結果、今回の受賞作は以下の2作品に絞りました。ぼくには、この2つの作品に何か共通の意味が感じられてどうしても1つに絞り切れなかったのです。

「たが山眼科クリニック」 (竹中健次君:1979 年卒業)

「安曇野穂高交流センタ- みらい」 (岡江正君:1982 年卒業)

竹中君は金沢で事務所を開き旺盛な活躍をしている人で、このコンテストのいわば常連です。毎回のように面白い作品を送ってくれます。今回は金沢市内の高台に建てられたクリニック併用住宅ですが、住まいと仕事の場を明快に分離する単純な空間構成がとても分りやすく、それが外観の手掛りになっています。なによりも最上階の居間やバルコニイからの眺めが秀逸です。それがこの作品のすべてを示しています。

一方、岡江君の作品は地元のコンペに共同作業で応募し、選ばれて実現に結び付けた仕事のようです。この種のコンペにありがちな難しい現実の問題を乗り越えて実現したのでしょうが、ここには地元の土の香りのようなもの濃く残されている点にぼくは強く惹かれました。とりわけ入口のある北側外観には単純なモチーフが生き生きと活かされていてそこに好感がもてます。ここでは広い意味を放つ暗喩が外観の下敷きになっています。この人は環境技術を豊富にもっていますが、それだけでなくこうした表現性が技術主義の上に成立しているように見えます。

いうまでもなく金沢も安曇野も日本の地方文化の拠点に位置しています。これら2つの案の共通項は、その地ならでは特異性に挑むことがその表現性のもとになっている点にあると思います。日本では地方主義が叫ばれて久しいのですが、なかなか地方のもつ特異性を文化創造のレベルに十分に活かしきれていないようです。実は「建築」がもっとも地方の特異性とかかわりを持つべきなのでしょう。方法は互いに違っていても、二人の狙いは共通していて、それぞれの表現性は賞賛に値するものだとぼくは考えました。

上記の作品以外にどうしても触れておきたい応募案がまず2 つあります。「TheBikers’ Apartment Project 」(更田邦彦君;1983 年卒業)と「境界に関する建築的考察、連作3作;コンセント、モンタージュ、スピンオフ」(小泉一斉君1996 年/千葉万由子1998 年卒業)の応募案です。前者は南側に大きなテラスを持つことで共同住居の本来の意味を取り戻したいとする作者の意図が良く伝わる作品です。後者の住宅3連作は何れも意図が明快で、その美しい空間構成に大変共感がもてます。最後に「市川新田 春日大社 神殿」(田村恭意君1994 年卒業)について一言。ここには田村君の(ぼくの知る限りの)過去の経験が充分に生かされていて、正に頭の下がる作品です。これからもますます健闘を期待します。

 

授賞式 20100130

芦原義信 夫人 & 竹山実 先生




 
趣意書

「武蔵野美術大学建築学科 竹山実賞」

本学名誉教授、竹山実先生の御意志のもと、先生より御芳志を賜り、武蔵野美術大学造形学部建築学科では、本年度も「武蔵野美術大学建築学科竹山実賞」を実施する運びとなりました。本賞は本学建築学科卒業生および大学院建築コース修了生の優れた建築作品に対し、先生ご自身の選定により、授与される賞です。
先生は、本学建築学科創設当時より、継続して40年にわたり建築教育を支えてこられましたが、2004年3月に退任、名誉教授になられました。専任教員に就任された当時から、学生の指導にあたられながら新鋭の建築家としてめざましく活躍され、都市の文脈に新たな刺激を与える作品群を世に問い、いまも活躍されています。一番館、二番館、晴海客船ターミナル、横浜市北部斎場などなど、それぞれの立地にかなう建築のあり方は、教えを受けた卒業生にとっても、オリジナリティ溢れる貴重な作品群です。
建築の新たな世界を開く設計を、教育の場でも問われた先生にふさわしい賞として、「武蔵野美術大学建築学科竹山実賞」が、将来の可能性ある受賞者を世に送りつづけることを願っています。

武蔵野美術大学造形学部建築学科主任 源 愛日児
武蔵野美術大学日月会 日月会会長 更田邦彦

竹山実賞受賞を振り返り

岡江 正
岡江建築設計研究所+CIRCLE 代表

地方で建築を造る方法には、最新の建築雑誌やネット上の情報そして経験というデータベースの中から構築する方法と、現在の社会状況のもと、その場所に何が必要かを探る中から新たな答えを見つける方法がありそうです。我々は後者でした。最後に、竹山先生を始め多くの関係者の方々に感謝いたします。

〜新しい素材が、新鮮だとは限らない〜:キース・ジャレット